夏、少年と、お姉さんと、ペンギンと【感想:ペンギン・ハイウェイ(森見登美彦)】

総合評価&あらすじ

評価 :5/5。

ぼくはまだ小学校の四年生だが、もう大人に負けないほどいろいろなことを知っている。毎日きちんとノートを取るし、たくさん本を読むからだ。ある日、ぼくが住む郊外の街に、突然ペンギンたちが現れた。このおかしな事件に歯科医院のお姉さんの不思議な力が関わっていることを知ったぼくは、その謎を研究することにした──。少年が目にする世界は、毎日無限に広がっていく。第31回日本SF大賞受賞作。

文庫本あらすじ紹介より

とっても頭がいい小学生・アオヤマくんの、ひと夏の冒険(と研究)を描いた物語。

森見登美彦作品と言えば”腐れ大学生”ものが定番ですが、めずらしく子どもの視点で書かれています。

住宅街にあらわれるペンギンたち、森の中に浮かぶ不思議な球体など、出てくるモチーフはどれもなんだか可愛らしい。

SFにカテゴライズされてはいますが、どちらかというとファンタジーに近い感覚で読める1冊です。

Kindle Unlimited(本の読み放題サービス)の対象となっています。※2021年8月現在対象外

1カ月無料なので、タダ読みもできます。

『ペンギン・ハイウェイ』のここが良い!

記憶の中にある小学生の日常

アオヤマくんたちが過ごすなにげない毎日は、誰もがかつて通った道。

知らない道をたどってみるのは大冒険。

家族と夏祭りに出かけて、クラスメイトたちとばったり会ったりしてね。

「あ~、そうだったそうだった!」と懐かしい気持ちになること間違いなし。

やさしいお話

SFというと、なんかディストピア系というか、ハラハラドキドキするものが多い気がします。

『ペンギン・ハイウェイ』はいたって平和です。なんと言ってもペンギンですから。

恐ろしい敵も、世界滅亡の危機も出てきません(その種のようなものはありますが)。

誰も”悪い人”が出てこなくて、いつ読んでも大丈夫という安心感があります。

印象に残ったセリフ

 お姉さんはふわふわした声で「少年は昨日何時に寝た?」と言った。

「ぼくはいつも夜九時に寝ます」

「そうだった。君は真夜中を知らないんだった」

「真夜中はすごいですか?」

「すごいよ。みんなが寝静まって、街が暗くなって、大冒険さ」

P.142

今では当たり前のことが、未知の世界だった時があったんですよね。

そのことを思い出させてくれるこのやりとりが大好きです。

わたしも「すごいですか?」と訊かれて、「すごいよ」と答えられる大人でありたいと思います。

「世界の果ては折りたたまれて、世界の内側にもぐりこんでいる」

 父はふしぎなことを言った。

 だからぼくはいつも世界の果てが見つけられそうに感じるのだろうか。

P.225

主人公アオヤマくんのお父さんがまた素敵なんですよ。

このセリフも含めて、お父さんが喋る言葉は全部大好きといってもいいくらい。

アオヤマくんを過剰に子ども扱いすることなく、きちんと向かい合っている感じが本当に素敵。

「父さん、ぼくはお姉さんがたいへん好きだったんだね」

P.381

アオヤマくんはびっくりするくらい頭のいい子です。

けれど「お姉さん」がなぜ気になってしまうのか、その理由は最後まで気付くことができませんでした。

大人のように冷静なところと、こういう年相応の部分、どちらもあるのがアオヤマくんというキャラクターの魅力です。

『ペンギン・ハイウェイ』はこんな人におすすめ

  • 子どもの頃のワクワクした気持ちを思い出したい人
  • 夏らしい本を楽しみたい人
  • 映像作品と一緒に楽しみたい人

『ペンギン・ハイウェイ』は2018年にアニメ映画が公開されています。

原作ファンであるわたしから見ても納得の出来でしたので、作品を読んで気に入ったらぜひ見てみてくださいね。

Prime Videoでも配信中です。

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